告白 Category:小説昇順 Date:2017年11月23日 ピアーズの生まれは、田舎のごく一般的な中流家庭だ。多くの若者がそうであるように、明確な未来のビジョンなぞまるで無かったが、漠然と普通に年を取り、いつかは自分も家庭を持つのだろうと思っていた。その考えに変化が訪れたのは、BSAAに入った時…いや、それよりも前、ちょうど軍属した頃から、少しずつ風向きが変わってきていた。簡単に言えば、ピアーズには才能があったのだ。早い段階で同期の中でも頭ひとつ飛び抜けた成果を上げられるようになり、自分がこの道に適性があるということを、明らかに自覚するようになる。そしてそんな中で出会った、男性でも6割は脱落する過酷な陸軍のプログラムを突破した彼女もまた優秀で、ピアーズの良き理解者だった。残念ながら軍での女性の立場はまだ弱く、長く前線に配属されることの叶わなかった彼女は、彼女の才能をより生かすために退役し、今は警察関係の仕事に就いている。だから、ピアーズがBSAAにスカウトされ、クリス・レッドフィールドについて行くと決めた時も、手放しで応援してくれた。彼女となら、安定した関係が続けられるとピアーズも思っていた。だが、順調に自分の才能が開花し磨き上げられていく中でピアーズは、その思いとは裏腹に、これからふたりで寄り添って人生を過ごして行く事は、難しいのではないかと感じるようにもなっていた。BSAAでの生活は充実している。仕事と彼女と…その言葉を聞いたとき、実は痛い所を突かれたと思っていた。そして…ピアーズにとって、BSAAとは、クリス・レッドフィールドそのものだった。「流石だピアーズ、よくやったな。」報告書にざっと目を通し、満足げな笑顔でクリスがうなづいた。先日無事に完遂したその任務はαチームとしてのものではなく、BSAAから選抜された精鋭と米陸軍による共同作戦のものだった。選抜チームのリーダーをそつなく勤め上げたピアーズは今、クリスのオフィスでお褒めの言葉を受けている。こういった任務は初めてではなかった。それどころか、こういうオブザーバー的な立場で派遣先へ送られることが増えている気がする。上部からの覚えもめでたいと、自慢の部下の活躍にクリスは上機嫌だ。ーー俺が、あんなことを言ったからなのか?ここ最近、ピアーズの心にもやもやと暗い感情が生まれ初めている。クリスの隣にいたいと、その右腕でいることが誇りだと、確かに自分は本人に伝えた。それなのに、クリスは自分を遠ざけようとしているのではないのか?誰もがピアーズの功績を褒め、昇進が近いのではと囁き合ったが、そんなもの、ピアーズ自身は何一つ望んではいなかった。あの日、すぐに後を追った筈なのに、クリスには会えなかった。どうせ嫌でも毎日顔を合わせるのだからとそこまで気にしなかったが、あの時、あのすれ違いから、少しずつ歯車が狂いはじめていた。「どうした、あまり嬉しそうじゃないな」なにか、気にかかることでもあるのか、とクリスが心配そうにピアーズの顔を覗き込んだ。「いいえ、なんでも…。ただ、少々、疲れが出たのかもしれません」そうか、ここのところ忙しかったから無理もないとクリスはすぐに納得した。「少し休暇でもとったらどうだ。…あ、前みたいな無理はなしだぞ。いざというときのために、体調管理も仕事のうちだ」お前を頼りにしているのだからと、いつも隊員達を安心させるあの優しい目で伝えられたクリスの言葉に、以前ならただ純粋に喜んだだろう。「そうですね…。お言葉に甘えることにします」ピアーズは素直にクリスの気遣いを受け入れた。確かに、今少し時間が必要だった。長いこと見て見ぬ振りをしていた事に、けじめをつける時間が。「なぁ…まだいいだろう?」甘やかな誘惑が、クリスの判断力を奪って行く。「っ、す、少し、待ってくれ……あっ、こら、レオン…っ!」立て続けに2度目を求められて、上がった息も整えられぬうちに再び喘がされる。「はっ、う、んっ、ぅん…ん…」抗議をしようと開きかけた口はすぐにレオンが唇で塞ぎ、熱い舌が乾いた口内を散々に犯す。すでに力を取り戻したものをクリスの下腹にこすりつけながら、口づけの間に甘えた声でお願い、とささやき、クリスの機嫌を伺うように上目遣いで訴える。レオンの不安そうな青い瞳を見ると、クリスは弱い。気持ちに応えた時、レオンが隠しきれない喜びを露にしたのを見て、クリスもこれで良かったのだと思えた。レオンは優しい。そして、惜しみなく愛情を言葉にしてくれる。クリスがその想いに疑問を持つ隙なぞ与えない程に。それなのに、不安がっているのは、当のレオン自身だった。レオンはクリスに対して不満なぞは一切言わない。無茶な要望を突きつけてきたりもしない。ただいつの間にかプライベートな時間に彼がいるのが当たり前になった。BSAAで働いている以外では孤独だったクリスの生活にするりと入り込んで、当たり前のようにそこに居る。レオンだとて、この国を守るエージェントで、時間も有限だ。それでも時には無理をしてまでクリスの元へ帰り、近況の報告を求められる時、ベッドでクリスが制しても構わず我が侭に求めて来る時、そういう所々でレオンの束縛が見え隠れした。もう墓まで持って行くつもりでクリスが奥底に閉じ込めた筈の感情が、レオンには見えているのだろうか。そんな筈はない———クリスは安心させてやりたかったが、どうすればそれができるのかわからず、わからないうちに、レオンが求めることにはすべて応じるようになっていた。「ひっ」うつぶせにさせられ、レオンが後ろから入ってくる。ゆっくりとした抽出にもどかしさをかんじて思わず自分でも腰を動かしてしまうと、首のうしろでレオンが「可愛い」と笑う。「もっとコレが欲しい?可愛いな。クリスは…随分上手におねだりするようになったね…?」「ひゃ、あ、ん!んっ…!」抽出を繰り返しながら、後ろから胸に回された手で両の乳首を強く弄られて、強過ぎる快感に腕のバランスを崩したクリスは枕に顔を埋める。すっかり覚えられてしまった弱いところを攻められ続けてたまらず自ら前を触ろうと股間に手を伸ばすと、そうはさせまいとレオンにその手を押さえ込まれ、クリスが悲鳴を上げる。「や、やだ、やだ、あっ…!もう、イカせ、て」「ああ、ああ、いいよ。だけどこっちは駄目だ…」レオンが動きを激しくするが、後ろだけの刺激ではなかなか達することができず、しかしそこ以外には触れることを許されないため、クリスは自ら腰を振って絶頂へと向かおうと必死にレオンの雄を銜え込む。「クリス、クリス…っ!ああ、もっと、もっと…」もっと、俺を求めてくれ。レオンのどこか悲痛な声が、白く霞む脳裏にいやにはっきりとこだました。始まりは、己の弱い心のせいだったかもしれない。レオンからの愛情を、自分の逃げ場に利用してしまった罪悪感がある。けれども、今は確かに、この想いに応えたいと思っている。こんなどうしようもない自分を必死に求めてくれる。帰る場所になってくれる。自分も彼にとってそんな存在になれるだろうか。そうなれれば良い。レオンは、俺を救ってくれている。月明かりさえも入らぬ暗い夜が、甘い香りだけを纏って更けてゆく。久しぶりに同じ時間に訓練場に立ったピアーズは、休暇前と打って変わってふっきれた明るい表情をしており、クリスはほっと胸を撫で下ろした。近頃ピアーズに単独任務ばかり舞い込んだのは、別にクリスが操作したわけではなく、前々からピアーズの実力を見込んだ上層部が、次の世代のリーダーとして育てたがっているために仕方のないことであった。ただ、今まで最小限に押さえていたそれに立て続けに許可を出したのには、少なからずクリスの思惑も絡んでいる。ピアーズをずっと手元に置いておくわけにはいかない。本人の希望が優先されるとしても、やはり優秀な人材を自分だけが囲っているわけにはいかないと、もっともらしい意見を盾に、個人的な感情でも、クリスはもう少しピアーズとは距離を置くべきだと思っていた。ピアーズを自分から解放したいからか、ただ、自分が楽になりたいからか。彼のためだと言いながら、これは自己満足のエゴかもしれない。先日の任務終わりのピアーズの、あまり見せない疲れた顔をみて、クリスは意図的にピアーズを遠ざけようとしてしまった自分の利己的さを少しばかり後悔していた。なので、素直に休暇を満喫し、今はいつもどおりはきはきと立ち回っているピアーズの姿を見て安心した。次からは、逃げずに本人の意志をもっと尊重しよう。もう、自分は大丈夫だ。邪な感情に支配される前の、良い上司と部下に、きっと戻ることができる。レオンに感謝かな、と、今朝も名残惜しげに別れた顔を思い出す。そんな風に思うのはレオンに対して失礼だろうか。この関係が失恋から立ち直るきっかけから始まったと知ったら、意外と嫉妬深い(こういう関係になってそれを初めて知って、正直驚いた)男はきっと怒るだろう。それも、時がたてばいつか思い出話として語ることができるかもしれないー。そこまで考えられるくらいには、だいぶクリスの心は立ち直っていた。だから、訓練が終わったあと話があるとピアーズに呼び止められたときも、何も怖じけることなく対峙できた。「彼女と別れてきました」雑談の時と同じトーンでさらりとピアーズが言ったので、クリスは一瞬何を聞いたのか解らなかった。「まとまった時間をいただけたので、きちんと話せてよかったです」にこっ、といつもの人好きのする爽やかな笑顔で、何の含みもなくピアーズは笑っている。「そ、そうなのか…。」と言ったきり、なんと言葉をかけていいのか口淀んでいるクリスの目をまっすぐ見て、どうして、そんなこと報告するのかって顔してますね、とピアーズが言う。たしかに、確かにそうだ。それを俺に言って、こいつはどうしたいんだ。「本当は、もっと早くにそうするべきでした。俺はずっと、自分の気持ちに気付かなかった…いや、気付かないフリをしていたのかもしれません。そんな訳がないって。きっと、尊敬の念が強すぎて、ちょっとおかしな風になっているだけだって」ピアーズ、頼む。それ以上は言わないでくれ。どうして、今更、そんな風に。お前は、幸せにならなくてはいけないのに。やっと俺は、本当に心から、そう願えるようになれそうだったのに。「あなたの隣に立つことが誇りだと言ったのを覚えていますか?俺の、正直な気持ちです。俺は、あなたの側に、自分の生きる意味をやっと見つけたと、思っています」訓練場から響く銃声も、隊員達のかけ声もすべてが止み、ピアーズの言葉と、ドクドクと早打ちする自分の鼓動のみがクリスの耳に響いている。「クリス、あなたを愛しています」他のすべてを、捨てても構わない程に。