忍者ブログ

SS log

小説置き場です。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


Alcohol and Impulse

クリスはあまり酒に強くない。いや、弱くもないだろうが、自分の酒量が解っていないタイプだ。
うっすらと上気した頬と、涙の膜に薄く覆われた瞳から目を反らすことができないままレオンは考えていた。
自分もそこまで強いわけではないが、若い頃にはそこそこに失敗もしたし、今は立場上簡単に気を抜かないよう身に付いた習慣のせいで、良い気分になる前に自然とストップがかかってしまう。
クリスと飲み交わしたことはそれ程多くはないが、彼はその時の機嫌がそのまま飲み方に出るように感じられた。
調子良くグラスを空けていく様子に、自分と一緒にいて気を許してくれているのが解るのは、嬉しくも有り、歯がゆくもあった。
クリスは知らない。目の前で人当たりの良い微笑を浮かべ相づちをうっている年下の男が、いつも自分に手を出す隙を伺っていることも、結局何も出来ずに別れた後の小さな後悔が、募り募ってもう限界が近いということも。
普段口数の多くない想い人が、酒の勢いのまま他愛のない話をふわふわとした口調でしゃべるのを、微笑ましい気持ちで聞けていたのは初めのうちだけだった。
内容は上の空で、呂律が怪しくなってきたその舌を自分のそれで絡めとったらどんな味がするのか、その想像ばかりしている。
クリスは相手が自分の話を聞いていないのに気付いているのかいないのか、上の空のレオンを気にせずまたグラスを煽る。
そのまま言葉が途切れた。
カラリと氷の回る音がする。
重たげにいまにも閉じそうな瞼。長くはないが黒く密集した睫毛をレオンは見つめた。酒を飲んだばかりの喉が何故かひどく乾いている。
「…クリス、眠いのか」
やっとのことで絞り出した言葉。ごくりと唾を飲み込む音がクリスに聞こえやしないかと、それが異常に気になった。
すると、やっと口を聞いたな、と思ってもみなかった事を言われて、レオンは首をかしげた。
「…お前は、俺にはあまり話さないな」
お前と居ると緊張して、飲み過ぎてしまうんだ。と、恥ずかしそうにクリスが笑う。
もう、押さえるのは無理だった。
レオンの膝が天板に当たりローテーブルが音を立てた。グラスが、と言いかけたクリスの言葉は、最後まで言えずに食われるように奪われた。
 
「…レオン、酔ったの、か…?」
「酔っているのはあんたのほうだ」





レオンはあまりしゃべらない。
だが他の人間に聞いた所によると、どうやらそれは俺に対してだけらしい。
もしかしたら苦手意識をもたれているのかもしれないと、あまり踏み込まぬよう気をつけていると、向こうから飲みに誘ってくることもある。2件目に行く代わりに自宅に招いてくれるぐらいだから嫌われてはないようだ。
正直に言うと、苦手に思っているのは俺のほうかもしれない。
威圧感があるわけでもないのに、あの淡い青の瞳で見つめられると緊張するんだ。レオンはじっと視線を留まらせて人の話を聞く。
緊張している俺はいつもより早いペースでグラスを空ける。意味もない話を続けてしまう。
こっそり様子を伺えば、作り物のように端正な顔に微笑をのせて、話の続きを促そうとかしげた首に手入れされた金髪が沿うように流れた。




想像した感触とは違っていた。気持ちが良いどころか、自分の心臓がうるさくて気に障るし、彼の唾液を啜る側からもっともっとと湧いてくる飢餓感に狂いそうだ。
クリスが逃れようと首を振り、ちゅく、と派手な水音をたてて唇が離れた。アルコールとキスで潤んだ目。
向かい合って座っていたはずがいつの間にかローテーブルを乗り越えてきたレオンにのしかかられて、背がカーペットに付いていることに気付く。
クリスは乱れる息そのままに上下する胸を這い回るレオンの手を慌てて掴んだ。
「ちょ…っ、あ!」
すると抗議する暇もなく、今度は相手の膝が足の間に差し入れられる。アルコールでふらつく思考が追い上げられる身体についていかなくて、クリスは胸を喘がせた。視界の端で金髪が揺れている。
「飲み過ぎだよクリス…くそっ、もう知らないからな…」
こんなことをして、正気に戻ったら嫌われるだろうか?それを恐れていままで我慢してきたというのに。
待ってくれ…頼むからと、焦るように先に進もうとするレオンを押しとめるクリスと目が合う。そしてクリスは息を飲んだ。レオンの、こんなに余裕のない顔を見るのは、初めてだったからだ。
撥ね除けようと胸に置いた手から伝わる鼓動は早鐘のようだった。
クリスは、酔いで火照った顔をさらに赤面させた。
彼が、自分をどう見ているのかが、解ってしまった。
何事にも動じないと思っていた屈強な精神を持った男が、自分の何気ない仕草ひとつでたちまち正体をなくしてしまう理由が、解ってしまった。
驚きと混乱で固まってしまったクリスの唇に、再びレオンはキスを落とした。今度はゆっくりと、宥めるように。そうしてやっと、レオンは初めて彼の唇を味わえたと感じた。
「逃げないで…クリス、お願いだ…」
やっと聞き取れるぐらいの小さな声は、あのいつも自信に満ちた友人から発せられるものとは思えない程、弱々しく耳に響く。そのせいでこれ以上抵抗する気を削がれてしまったクリスの頭は、もうすっかり酔いが覚めていて、とてもすべてを酒のせいにできる自信がなかった。

(お題:酔っぱらいさん油断大敵)

Where the mind with fear.

もうやめなくては、と思う。だけど、明確な理由も思いつかないんだ。そんな言い訳を自問自答しながら、あれから何度か逢瀬を重ねている。
だいたい、あの顔がいけない。訪ねた部屋のドアが開かれた瞬間、あんなにも嬉しそうな顔をされて、拒絶できる人間がいるだろうか?
どうして俺なんだ。どうして、お前程の男が。解らない。だけど拒絶できないでいる俺のほうもどうかしている。
あれから、ずっと熱に浮かされている。俺も、お前も。



”任務が入った。今日は行けない”
そっけない一行だけのメールを、もう何度見返しただろう。
”いつまで?”と返した質問の答えはまだ帰ってこない。
クリスは気付いていないが、お互いが多忙な職務に就く中で、そう多くはないものの、頻繁に約束を取り付けられていたのは偶然じゃない。前もって調べた上で、お互いの空き時間が重なる時を狙い済ましていたからだ。
だから、約束の2時間前になってクリスが寄越したメールの内容が嘘だと言うことも、レオンは知っている。
言い訳でもいい、返事があれば引き返そうとモバイルを握ったまま向かったクリスの滞在先、そのドアの前でもう一度画面を確認したが、着信は無かった。


「嘘ついたんだな」
「…悪かった。だけど」
もう、やめたほうがいい、こういう風に会うのは。
クリスが言ったのは、なんとなく予想していた言葉だったが、本人の口から聞く拒絶は重くレオンにのしかかる。
「何故?」
レオンの口元は笑みを作りながら、強い口調で詰問する。
「俺が嫌か?会いたいと思っているのは、俺だけ?」
「そういうことじゃないんだ。なあ、レオン。俺達はやるべきことがあるだろう。裏切りも犠牲もたくさん見て来た。本当に信じられる人間もそう多くない。でも俺とお前は良い友人になれたんだ…そうだろう?あの、始まりからずっと、同じものを見据えてきたはずだ。なのに、こんな、」
こんな関係は、不毛だ。
クリスの濃い茶色の瞳が不安げに揺れている。それでも、まっすぐにレオンを見据えながら言った。いつか、足枷になるぞ、と。
good friends.レオンは鼻で笑った。そんなものになれる自信はない。
「でも、お前は俺を受け入れただろう。それは?なかったことにするのか?」
一歩、レオンが前にでる。反射的にクリスは後ずさりした。してしまってから、しまったと思った。
レオンの青い目が、冷たく燃え上がるのを見た。
強い力で己を捕らえる腕にクリスは抗えなかった。これ以上この男の自分に向ける感情を刺激するのが恐ろしかった。

強引に身体の中に入り込まれて、いままでレオンが己の身体に気を使っていたことに気付いた。そんなことに気付いても、今更どうしようもない。
快感など、どちらにもなかった。
だが、レオンのほうは。
自分の奥底にある暗い部分が、肉体の喜びなどどうでもいいほどに満たされて行くのを確かに感じている。


どうしてこんなことを、とクリスは言った。どうしてだろう。
彼を好きだ。大切に思っている。
けれども、それと同じぐらいの強さで、押さえつけ追いつめて、文字通り犯したいと思っている。自分のどこからこんなに凶暴な感情が湧いてくるのか、レオンにも解らない。
いつもは厳しさを讃えているその顔に涙を浮かべて、Please,と震える唇からこぼれる声。止めて欲しいという懇願は、組み敷く男からすればもっとして欲しいと言っているのと同じことだった。あの声色を思い出すだけでこんなにも高揚する。
もしも自分が離れたら、この声を他の誰かが聞くのだろうか。涙の跡を目尻に残して、今は穏やかに眠っているこの寝顔を、これまで見た人間は何人いるのか?
そこまで考えて、誰に対してか解らない激しい怒りに目がくらんだ。理不尽な感情だと解っていても、自分ではどうすることもできなかった。
考えても仕方が無い。暴れる感情に蓋をして、今はとにかくこの凶暴な己を彼から離さなければ。



クリスが目を覚ますと、部屋には自分一人きりだった。一度横で眠る己を見つめる彼の顔を見たような気もするが、夢だっただろうか。寝入った直前の記憶も曖昧だ。
手首には、うっすらと指の跡がついていた。これも、すぐに消えるだろう。すでに傷だらけの身体に痕跡など、なんの意味もない。ぼんやりとそんなことを考えた。
1人で部屋を後にしただろう彼の背中を思い浮かべる。
完全に拒絶することも、受け入れることもせずに、彼を傷つけている。だが、一度与えられたこの熱を、自分は捨てることができるのか。
拒否を口にしながらもどこかで求められることに安堵を覚えている自分が確かにいる。それは妙に罪悪感を煽る感情だった。


俺は怖いよ、レオン。お前のことも、自分のことも。
お前に触れられるたびに、弱い部分が増えて行く。

(お題:独占欲の自覚)

Just wanna be with you

療養が必要な程の怪我ではなかった。だが、それを負ったきっかけがいつもは油断してても見落とさないような些細なミスのせいだということが、問題だった。
クリスは今、半ば強引に休養を命じられて、病院にいる。大事には至らなかったが自分の過失による、しなくてもよかった怪我。ようは、頭を冷やせ、と言われたのだ。
一度は拒否したが、自分の注意力が散漫になっているのは自覚していて、結局は了解せざるを得なかった。くだらない自分の機嫌のせいで、他を危険にさらす訳にはいかない。
自宅療養でもよかったが、入院を言い渡されるほどの重傷だと勘違いさせ心配をかけてしまった部下の必死で気遣わしげな態度を見てしまっては、それも気が引けて、病室で暇と罪悪感をもてあましつつおとなしくしている。
だいたいの事情を知るジルが一度、からかい半分に見舞いに来た。
「たいしたことなくてよかったわ。でも今のあなたに休養は確かに必要そうね」
寝不足の顔してる、と頬に触れた手の親指で、クリスの目の下に浮かぶ隈を撫でた。勝ち気な笑顔にほんの少し、心配をのせて。
ここ最近のクリスの無茶に組まれたスケジュールも知っているであろうが、それに関して彼女は何も言わなかった。
「現場に居合わせた貴方の部下達に質問攻めにあってまいったわ。レッドフィールド隊長は随分人望がおありだこと」
「すまない…ありがとう。今度何か埋め合わせするよ」
「当然ね。この私を心配させた分も上乗せしなさいよ」
ベッドサイドには、彼女が置いていったシックなシャンパンカラー基調の花束が生けられている。主張しすぎない色彩と香りがジルの、あの気持ちのいい性格を思い起こさせた。久しぶりに彼女と交わした軽口は、クリスの心を穏やかにしてくれた。
例えば、彼女となら。と想像する。
ずっと一緒にやってきた。共に傷つきながら。
あの町で私生活もしらないただの同僚だった頃は微妙に存在した距離もいつのまにか無くなっていて、今はお互いの欠点すらもよく知っているし、同じ未来を見据えて一緒に居る。たぶん、一生。
手放しで背中を預けられる女性というのは、希有な存在だ。
自分はどんな場面であっても彼女のために死ぬことは厭わないし、彼女もまた、そうであってくれるだろう。
完璧なパートナー。
だけど。
…彼は。
サイドテーブルに乗った普段使いの端末を横目で見る。彼からの連絡は、ここしばらく途切れていた。
(いや、もう、無いかもしれないな)
距離を置こうと言ったのは自分だ。それがその通りになって、何も問題はないはずなのに。
怪我をした時、一瞬の窮地に陥った時に頭に浮かんだのは、あのじっと見つめてくるペールブルーと、彼とすれちがったままで終わってしまった後悔だったのだ。



命に別状はなくても、傷は痛む。
その時クリスは鎮痛剤の作用で、うとうとと微睡んでいた。
さらり、と何かが脇腹に巻かれた包帯の上から触れるのを意識のどこかでぼんやりと感じる。
みじろくとその何かはぴたりと動きをとめたが、やがて再びおずおずとそこに触れ、ゆっくりと留まった。じわりと伝わる暖かさが優しく傷を包む。
ジルよりも大きな手だ。誰かは、すぐに解った。
「レオン、来たんだな」
目を閉じたまま呼ぶと、さっと包帯の上の手が離れた。
ゆっくりとそちらを仰ぎみれば、きっと滅多に人に見せた事の無いだろう、情けない表情とかち合って、思わずクリスは微笑んだ。そんな顔を見たせいか、先ほどまで眠っていたせいだろうか、あんなにも感じていた気まずさは不思議とクリスには無かった。
「怪我、を」しばらくの沈黙の末、レオンが口火を切った。
「お前が、怪我をして戦線から退いたと、聞いて。知ったのは、一日後だったから、俺、お前がどうかなってたらどうしようって、そればかり」
らしくない、たどたどしい口上でレオンは言う。
「あんな仕打ちをしたのが、俺とお前の最後になってたかもしれないって考えたら、お前が無事だと解ってももう、いてもたってもいられなくて」
だから、来てしまった。
馬鹿なやつだ、とクリスは思ったが、ただの軽口でもそんなことは言えなかった。馬鹿は俺だ。考え過ぎて要らぬ怪我をするほど、想っていたくせに。
クリスがベッドから起き上がろうとするのを、レオンがあわてて止めた。
「大丈夫だ。本当は入院するほどの怪我じゃないんだ」
「それでも、安静にしておいたほうがいい」
「平気だよ。…俺の周りは、心配性なやつばかりだな」
茶化すように言うと、むっとした声で、ほかには、誰が?と聞かれる。
「他って?」
「俺以外に、お前に過保護な奴」
クリスは呆れた。過保護って。自分のどこに保護される要素があるというのか。
「…その、花は?」
怪訝な顔でいるクリスを差し置いて、ふてくされたような声のままレオンが顎でジルの花束を指した。
「同僚の女性が見舞いにくれたんだ。彼女のセンスは良いが、俺に花なんて、似合わないよな」
上品な色合いの花束。けれども今はそれよりも、横に居る少しくすんだブロンドと、不安げに揺れるペールブルーがより鮮やかにクリスの視界に映っている。
「俺も…用意したんだ、花」
彼女の花束を見つめたまま、レオンは言う。
それらしいものは見当たらず、クリスは続きの言葉を待った。
「病院の前まで来て、やっぱりいらなかったかもしれないと思い直した。男が花なんてもらっても迷惑だよなって…。それでも俺はお前に贈りたくて、花を選んでた時は喜んでもらえるだろうと浮かれてた。けど、病院が見える所まできて、急に怖くなった…。お前は優しいから、きっと笑ってありがとうと言って受け取るだろう。だけど内心はきっと、”こんなもの渡されても困る”って思うんだ…変かもしれないが、俺には、それが、まるで俺のお前への気持ちみたいで」
怖い。自分の押し付けがましい気持ちが、お前を傷つけることが。そしてそれ以上に、この気持ちがお前にとって迷惑でしかないという事実が。こんなにお前を想っているのに!

もう、何も考えずにクリスはレオンを抱きしめた。

レオンは突然のことに戸惑い、傷が、と気遣いの言葉をかけたが、やがてためらいがちにクリスの背に手をまわし、それがらがむしゃらにその背と腰を抱き寄せた。
「クリス、酷いことをしてすまなかった。だけど、どうか解って欲しい。お前が大事なんだ。色々考えたけど、結局はそれだけだ。お前が好きだ。傍にいたいんだ——」
ベッドに座ったままの姿勢で抱きしめられて、脇腹の傷が引き攣れたが、クリスは構わずレオンの首を抱き寄せて、触れるぐらいに口づけた。
「お前が謝ることはないんだ。俺が馬鹿だった。
建前ばかりならべて、本当は解っていたのに。俺は、お前が…」
最後の言葉は、今度は向こうから塞いで来た唇の中に消えた。
この関係に未来がなくてもかまうものか。
別れはいつかくる。寄り添って生きることも共に死ぬことも叶わないだろう。
終わりの見えない戦いの中、互いに知る事もないまま、別々の戦場で死ぬかもしれない。
ただその時が来るまで、今この瞬間、お前と抱き合って、キスができたら良い。今だけは、それがすべてだ。

(お題:花を、あなたに)





「ところで、その花、結局どうしたんだ?」
「…捨てるのも気が引けるから、ナースステーションにあげた」
「お前、変なところで不用意だよな…(頻繁に部屋の前を通る不自然なナース達を見ながら)」

Dear my sweetie.

この関係をきちんと受け入れるのに時間がかかった理由のひとつに、同性だという点がある。
どちらかが言い出したわけでもなく、最初の流れで役割が決まってしまっているが、当然双方とも男相手の経験などなかったので、初めての時は結局最後まではいかなかった。
クリスは違和感と羞恥心はあったものの、不思議と始めからレオンの体に対して嫌悪感はなかった。彼の容姿が整っているからかもしれないし、自分の彼に対しての好意からかもしれない。はっきりとした理由はわからないが。
レオンのほうはどうなのか、気にはなるが正直に聞くのも抵抗がある。自分のような体躯の男を彼が抱きたがるようには思えなかったし、そう思える自信もなった。
ただ、自分よりも積極的にこの行為の意義を追求しようとしているのは確かのようで。
「ほら…ここ、わかる?」
「っぁ!…っなん、それ、やめ…っ!」
レオンの指が、探り出した一点を強弱をつけて弄ると、意思とは関係なくクリスの体が跳ねた。
手をつっぱねて声を殺し、未知の快感に翻弄される怖さと羞恥を訴えても、レオンは喜ぶばかりで、許してはくれない。
「声、押さえないで…聞かせてくれよ。感じてるクリスは、エロいね」
熱に浮かされた低く掠れた声が、聴覚からもクリスを刺激する。
体温で暖まったローションの、人工的な甘い匂いと粘着質な水音が立ちこめてますますクリスは羞恥に苛まれる。
「これ、良いんだろ。もうこんなに…ほら、わかるか?」
「そ、ゆこと、言うの、やめろ、…ァ」
「恥ずかしい?…かわいいな」
言いながら、言葉ほど余裕のない仕草でレオンはクリスの体をもう片方の手で忙しなく辿り、あちこちに口づけている。
初めて体を繋げようとした時、その箇所を時間をかけて解すことを嫌がったクリスに、傷つけないためだと説明して納得させたレオンだったが、今やあきらかに楽しんでじらしている。
どうも、男同士のセックスについてどこかで知識をつけてきている気がしてならない。
(クリスのほうはと言えば、一応知っておいたほうがいいだろうと調べかけたものの、どうしてもいたたまれず、早々にやめてしまった)
一方的に散々喘がされて、涙の滲む目でスキンのパッケージを(ここにきてやっと!)破っているレオンを睨むものの、快感にとろけた瞳でそんなことをしてもますます相手を上機嫌にさせるだけであった。


こっち向いてよ、と甘えた声でねだると、背を向けて横になっていたクリスがもぞもぞとこちらへ方向転換した。
ほら、と投げ出した腕にしばらく迷った後、しぶしぶといった体で頭を乗せる。
セックスでの役割より、終わった後やそれ意外でこういう女に対するような扱いを受けることへのほうが抵抗があるらしい。その気持ちもわからなくもないが、レオンはこの無骨な男を甘やかすのが好きで、今のところそれを止める予定もない。
クリスはレオンの腕に収まっても、目も合わせようとしない。怒ったような顔が、ばつが悪く照れているだけだというのもレオンは知っている。その精悍な顔つきは一般的には強面に分類されるであろうが、レオンがその一般的な感覚をとりもどすにはもう遅いようだ。それぐらいハマっている自覚もある。
男相手に、こんな風になってしまうなんて、自分でも信じられなかったが、クリスに惹かれて触れたいと思う気持ちを認めてしまってから、こうなるのは自然なことのように思えた。
空いてる手をそっと腰に回して、抵抗されないようにゆっくり引き寄せる。やっと懐いた獣を逃がさないようにするみたいに。
レオンの体温を感じながら、クリスは深く呼吸をした。けだるい余韻が心地よく、眠ってしまいそうだ。
まぶたが重くなっている恋人を、目を細めて見つめるレオンの表情は、クリスが見ればまた恥ずかしがってそっぽを向いてしまいそうなほど甘やかに崩れている。
「クリス…もう寝てしまうのか?」
腰に置かれた手がだんだんと下へと移動して、クリスの入眠の邪魔をする。「もっとしよう…」
「ちょっ…!あ…馬鹿…っ」
先程までの名残でぬかるんだままのそこは大した抵抗もなくレオンの侵入を許した。
「嫌なのか?…ん?俺とするのは、気持ち良くない?」
「あ、…う…っ」
少しずつ慣れてきたとはいえ、受け入れるためにできていない場所は狭く、押し付けられたものを圧迫する。小さな入り口に侵入するたび、無理に酷いことをしているようで、どうしようもなくレオンは劣情を煽られた。
「あっあっ、そ、そこ、や…っ」
覚えたばかりのクリスの良い場所を狙いすまして攻めてやると、逃がすまいとするかのように肉壁がレオンに絡み付いてくる。
「なあ…嫌なの…?やめて欲しい?」
「駄目、駄目だ…」
これをするのが駄目なのか、それとも止めることが駄目なのか。
そう訪ねてもう少しいじめたくなったが、本当に拒否されるのも困るのでこれ以上は止めておこう、とレオンが思った時、
「…ち、いい」
「え…?」
「き…もち、ぃい…っ、レオン…っ!」
それは駄目だ、クリス、不意打ちだ。
「!?あ、あ、あ、待て、レオン、れおんっ」
激しく打ち付けられて、もうクリスは揺すぶられるままに喘ぐしかできない。そのだらしなく開いたままの唇をレオンは夢中でむさぼった。

いいのかクリス、こんなことを許して。
自分が何をされているか、ちゃんと解っているか?
俺がお前を甘やかしてるつもりが、お前も大概俺に甘い。

クリスの欲望を手のひらで受け止め、自分もクリスの中で薄いゴム越しに吐き出して、2人一緒に束の間の幸福に溺れた。



クリスは、照れが邪魔をしてなかなか素直に言えないが、この奇麗な男を甘やかすのが本当は好きだ。こんな大男が自分からして欲しいとねだるなんて死んでもできそうにないが、決して一方的な関係ではないと思っていることが彼に伝わっているといい。
レオンは、自分が人に与える印象を心得ているし、自分の容姿が武器になることも、相手が喜ぶ言葉を選ぶ術も知っているが、クリスの事に関してはそんな駆け引きなど絶対にしないと決めている。だからこそ彼への欲求はいつもストレートだ。
相手が一人前以上の男であることは知っている。けれど本当は寂しがりな彼が、何も考えずにすねたり甘えたりできる存在でいたい。その、唯一の存在に。



(お題:ねだり上手を有効に)

冷たい手

しばらく大きな事件が起きない日々が続いていた。
BSAA北米支部では隊員達が腕を鈍らせぬ用、常時変わらず厳しい訓練をこなしながらも、このまま何事もなく年が越せるといいのだがと言い合っていた。
映画やドラマでクリスマスには犯罪率が下がるという話をよく耳にするが、実際には年の瀬というのは混乱が起きることの方が多い。キリスト教が盛んな地域ではそんな統計もとれるのかもしれないが、国を越えて活動しているBSAAにはあまり関係がない。
ただ、平和な日々が続くといくら精鋭といえど多少なりとも甘んじてしまうもので、特に出張もなくアメリカにとどまっている北米支部の中では、その時期を家族と過ごしたいと、休暇のタイミングを見計らう者も少なくなかった。

クリスはそれを微笑ましい気持ちで見ている。
勇者たちの平和ボケを嘆く声は少なからずあったが、犠牲の出ない日々は喜ばしいし、特に若い部下達には自分達が守ろうとしている人達との生活を、出来る限り大切にしてほしい。こんな世界にいるからこそ。
訓練終わりのロッカールームは、休暇を過ごす相手の話題で盛り上がっていた。
輪から少し離れてなんとはなしに雑談を聞いていると、隊長は故郷に帰えられたりしないんですか、と声がかかり、自分に集中する視線に苦笑いした。
「いいや、俺は…。こっちでやっておきたいこともあるし」
「そうなんですか?またクレアさんに怒られるんじゃないですか」
「妹はバリーの家に行くって言ってたかな」
「それだ、バリーさん、隊長は何度言っても一緒に来ないって愚痴ってましたよ!」
別の方向から飛んで来た声に一層場がなごんだ。このなんでもないひと時がクリスは好きだ。
ぱらぱらと部屋を後にし帰路につくメンバーを見送り、さてそろそろ自分も行こうと立ち上がると、出口の前にひとり、そわそわとクリスを待つ影がある。
クリスは聞こえない様に小さくため息をついた。
そのまま近づいて行くと、あの、差し出がましいかもしれないのですが、と前置きをして、クリスが1人になるのを待っていたピアーズが問いかけてきた。
「隊長、休暇とらないつもりでしょう?」もし何か起きても自分が動けば良いと思っている。ピアーズにはお見通しだった。
「その、隊長が休まないなら、俺も…」
そう、言い出すと思っていたんだ。真面目で忠実な彼には何度も助けられているが、真面目すぎるのも考えものだ。
「何も全員が一斉に留守にするわけでもないんだし、本当に必要になったらお前がどこで何してようが容赦なく呼ばれるぞ?」だから、休めるときに休んでおけ。
「それに、大事な用があるそうじゃないか」
先ほどロッカールームで耳にした話。帰郷に連れて行く相手の話だ。つまり、家族に紹介する相手ができたということを、散々ひやかされていたのがこのピアーズだった。
「いや、別に、何か特別な意味があるわけじゃないんですよ!その、たまたま、彼女の都合との兼ね合いで、具体的にどうするとかは、まだ」
「はは、何も俺に言い訳する必要なんてないぞ」
「あ、そ…そう、ですか?」
何故か一瞬ぽかんとし、そうですよね…と、確認する様につぶやく様子に、クリスは口元を緩めた。
「軍時代の同僚か、ならこの稼業に理解もあるだろう」
「隊長!」
しっかり聞いてたんじゃないですか!隊長までひやかさないでくださいよ?と珍しくうろたえたように早口で捲し立てる部下を笑って、短く立たせた髪をかき混ぜる。
「行って来い、これが過ぎたらまたいつ顔を見せられるか解らないんだから」
その話はこれでおしまい、と会話を打ち切り歩いて行くクリスの後ろでぶつぶつ言いながらも、それ以上食い下がることなくピアーズも後に続く。
そんなに照れなくても。クスクス笑うクリスに、ばつが悪そうにしながらもピアーズのその表情はまんざらでもないように見える。いいじゃないか、喜ばしいことだ。

そう。本当に

好きな相手には、幸せになって欲しいんだ。








「うん、そう、子供達も相変わらずよ」
電話越しの妹の後ろで、女の子達が楽しそうに笑う声がする。クレアにもこんな頃があったな、となんとなく昔を思い出している。今は受話器から聞こえる声も、すっかり落ち着いた大人の女性だ。
「クリスもこれば良かったのに。バリーが残念がってたわ」
「ああ…また埋め合わせはするって言っといてくれ」
「いいけど…別にバリーは、クリスと一緒に飲みたいだけじゃないと思うわよ」
それはクリスにも解っている。BSAA一辺倒の自分を、家族の団らんに参加させようとしてくれるバリーの気遣いだ。ありがたいと思っている。ただ、今の自分の状態では、一緒にいても上の空になってしまっていただろう。
「ていうか、私への埋め合わせはいつ?最後に会ってから何ヶ月たったと思ってるの!」
「あ、わ、悪い…。その、あの時は差し入れありがとうな。皆喜んでた」
「それは良かった。私もクリスが周りとうまくやれてて安心したわ」
母親のようなことをいう。生意気だが、こういう時、妹がいてくれて良かったと思う。
「しょうがないから、クリスマスに一人で寂しいクリスにプレゼントを用意してあげたわよ」
「プレゼント?」
はて、なんだろう。支部のほうにもさきほど帰って来たばかりの自宅のほうにも、荷物の類いは届いていない。
きっともうすぐ着くわ、と含みを残して妹との電話は終わった。24日の夜だ。もう配達もやっていないだろうに。
手持ち無沙汰に何度も確認してしまう端末をテーブルに置き、小さく息を吐いた。聖なる夜が静かに過ぎていくのを喜ぶべきなのに、せめて何か仕事があればと思ってしまう、そんな自分を恥じた。
クレアは、自分を寂しいと言うが、そんなことはない。ただ、少し、疲れていた…。そんなときに、己を盲目に慕ってくれる存在が現れ、盾となり、剣となり、いつしか支えられるのが当たり前になりーーーそれがなぜ、こんな恋慕めいた感情に繋がってしまったのか。浅ましい気持ちを自嘲するしかなかった。
何も望んでない。ただ、導き見守れればそれで良い。そうだ、クリス。それでいいんだ。これからも何も変わらない。悲観する事などひとつもない。何ひとつ…。

突然来客をつげるドアベルが鳴り、クリスはビクリと肩を振るわせた。
クレアからの荷物だろうか?もう深夜を回ろうとしているこんな時間に?
怪訝に思いつつドアスコープを確認する。と同時に見えた人物に驚いてすぐドアの鍵を外した。
「やあ。メリークリスマス、クリス」
にっこりと、お手本のような微笑をのせた馴染みの顔に、クリスは目を丸くした。
「レオンじゃないか!どうして…」
「クレアに、クリスが退屈してるって聞いてね。丁度俺もこっちにいたから」
独り者同士やるのもいいかと思ってさ、と抱えていたボトルを互いの目の前に掲げて見せた。
「…やられた。プレゼントってこういうことか?」
「プレゼント?」
「クレアが、もうすぐ俺にプレゼントが届くって、さっき電話で…」
「ははっ!そりゃいい。でも、それじゃプレゼントをもらったのは俺のほうかもな」
クリスと過ごす時間をさ、なんて台詞をしれっと放つものだから、思わずクリスは赤面した。この男は10人いれば10人とも整ってると言うであろう容姿と、それに見合うクールな雰囲気をもっているが、逆に言えば対面する者に少し近づき難い印象を与える。実際のところはこうしていつも親しげに接してくれるのだが、初めはそれを意外に感じたものだ。
「でも、いいのか?他に相手がいるんじゃないのか」
「どうして?俺じゃ役不足か?」
そりゃ、台詞が逆だろう、と言いながらも、グラスを準備するクリスの心はさっきと比べて幾分か弾んでいた。レオンの軽口が、こんな夜にはとてもありがたい。

クレアやバリーの話、そこから転じて警察時代の話から、自然と互いの仕事の話へ進んで行く。共通点がそこだから、自然とそういう話題になってしまうが、不思議とレオンとの会話は重苦しくならず気が楽だった。立場の違いがあり互いに客観的になれるからだろうか。レオンは、クリスが率いるチームの話を特に聞きたがった。単独で行動しているエージェントだから、チームワークに興味があるのかもしれない。
「クリスは良い隊長してそうだよな」
「そうかぁ?そうできてたらいいんだが…若いときは協調性がないってよく言われてた」
「へえ、意外と…。でもそうだな、命令無視して前に出るタイプと言われればそんな感じもする」
「…実は未だにそれ、指摘される…」部下に…。と、ピアーズの小言を思い出して、語尾が小さくなる。
しっかりしろよキャプテン、とレオンが笑った。クリスも力なく笑って杯を空ける。いやだな、さっきまで忘れていたのに。自分のそばでキャプテンと呼ぶ声を、今は思い出したくなかった。
一瞬別の方向を向いてしまった意識をあわてて戻すと、いつの間にか笑いを潜めたレオンがじっとこちらを見つめている。ふと、距離の近さが気になった。
「きっと…その部下はクリスを心配してるんだな」
「それは、ああ、解ってる。駄目だな、部下に心配をかけるキャプテンなんて」
「たぶん、捨て身で自分達を守ろうとしそうではらはらするんじゃないかな」
俺は、そう思う。心配だけど、でも、羨ましい。
「クレアに話を聞いていた時も羨ましかったよ。身を呈して守ってくれる兄貴がいて…」
「よせよ。どうしたんだ、急に」
ちゃかすようなトーンでもなく、訴えかけてくる言葉と目に居心地の悪さを感じ、思わずクリスは身をすくめた。
「そうだな…俺が欲しいのは結局、兄貴じゃなかった」
レオンの手が、クリスに触れる。さらりとした金糸が、揺れる音さえ聞こえそうだ
「最初は、頼もしい男だと思った。けどお前は、周りが思ってるよりずっと繊細なんだよ…」
気付いているか?今のお前の雰囲気はとても、危なっかしい。つけこんでくれと、言わんばかりに。
「逃げないんだな」
今にも息がかかりそうな近さで、レオンが言った。いくらこういったことに鈍感なクリスでも、何もわからないフリすらできない。
「正気か?」
「冗談にしたいか?いいよ。お前がそれで、楽になるなら」
いいよ、と、そう言ったのに、青い瞳は少し傷ついたように揺らめいていて、それ以上見ていられなくなったクリスは目を閉じた。
何を、誰を気にしている。あいつは、何も関係ない。俺が何をしようと。
レオンの手は僅かに震えていた。意味のない一方通行な気持ちより、今は静かに、だけど必死に求めてくるこの手に応えてやりたかった。
応えてやるだと?傲慢もいいとこだ。求められることを一番望んでいるのは、自分のほうなんじゃないのか?

後頭部に回されたレオンの指が、髪をなでる感触がする。
緊張して冷えきった、優しい手だった。












        
  • 1
  • 2
  • 3